いち在日朝鮮人kinchanのかなり不定期更新日記

はてなダイアリーから移行しました。古い記事ばかりになりましたが、ボチボチ更新していこうと思います。

「桜井誠」の逮捕と、実名・通名報道について(20130619追記あり)

在特会桜井誠が逮捕されたことを受けて、思うところを少し残しておきたい。

まずは一般論として、私の犯罪報道に関する立ち位置を記す。

1.私は、犯罪報道においては、原則的に実名報道には反対である。
「犯罪があった/被疑者が拘束された」という事実が報道されることは、司法による逮捕権の濫用、罪刑法定主義の徹底を監視するという系譜において意義がある。また為政者の汚職や金持ちの横暴等に対して、平等に法が適用されているかを観察する意味においても、犯罪事実が隠蔽されず晒されること、それ自体には意義がある。
しかし、わざわざ報道において実名を書き連ねなせればならない必然性を、私は見出すことはできない。何故なら、被疑者段階では推定無罪である以上、事実関係は訴訟によって認定されるものに委ねられるべきだし、犯罪行為に対する刑罰とは別に、実名を晒し社会的な凌辱に浸さなければならない積極的な理由などは無いと考えるからだ。
但し、政治家や社会的知名度がある者の、逮捕を伴う程度の重大犯罪については、仮に原則匿名という一律的な報道管制を執ることになれば、公的な都合によって犯罪事実が『消される』危険性が伴うことを考え、例外的に考慮されなければならない、ということは付言しておく。

2.「特異カテゴリー」「特殊キーワード」で稼ごうとする昨今の報道に、受け手側の強いリテラシーを求めたい。
犯罪報道において、報道対象の取捨選択は、基本的には報道機関に委ねられている。ごくありふれた窃盗や覚醒剤事件などは記事にすらならず、重大犯罪以外は、専ら「特異カテゴリー」か「特殊キーワード」の事件しか記事にならない。見出しやターゲットが購読数やクリック数に直結し、収入にダイレクトに響く以上、良い悪いは別にしてそれは至極当然の流れなのだ。
「特異カテゴリー」とは、犯罪事実に関わった者(特に加害者)に、職業や社会属性的に特異な者として好奇や羨望や軽蔑の対象になっている者が含まれている事件等を指す。政治家や社長、スポーツ選手等社会的地位のある者を始めに、公務員、教職者、宗教者、外国人、障がい者暴力団関係者などのほか、性的興味の対象としての『女子○○』などが挙げられる。
「特殊キーワード」とは、犯罪行為や関連する場所について、興味を喚起する文言のことで、痴漢盗撮下着泥棒などの破廉恥罪名のほか、韓国や中国、新大久保などの地名も、ある種の興味を沸き立たせる意図で多用される。
例えば、「韓国人が…」とか「小学生教諭が盗撮」とかは、ネットニュースの大好物で、クリックの多さ(広告収入の上昇)が期待できることは想像に易い。ヤフーニュースのトピックスを適当に拾ってみても、この二つの特性を持たせたトピックスが多用される傾向にあることは明らかだ。一度確認してほしい。

問題は、これまでに見るように、犯罪報道というのは、紙上やネット上に晒された時点で取捨選択や記号化という作業が完了しているのであって、ある種の意図や恣意が反映していると言うべきである。紙上やネット上を賑わしている事例のみが起こった犯罪のすべてではなく、甚だしくは、ネット上で「特異カテゴリー」の犯罪行為ばかりが取り上げられていることをもって、犯罪がこれらの者ばかりで為されているわけでは全然ない、ということを踏まえておかなければならない。これを踏まえずにネットニュースを世界のすべてだと思い込むと、早晩自己洗脳に陥り、実態とかけ離れたおどろおどろしい世界を見定め、訳の分からないどうでもいいことに恐怖しなければならない、という残念な人間に成り下がる。注意しなければならない。

ここまで書いた内容は、人並みの想像力さえあれば容易に理解できる(している)のだが、ある一部の者、特に犯罪行為がある特定の種族的タグを持つ者によって大半が行われ、それによって日本が侵されていると信じていたい願望を持つ者にとっては、たぶん永遠に理解されない。



さて、今般桜井誠が逮捕されたことを受けての、報道各社の対応について眺めてみたい。以下の図は、桜井誠の逮捕に際して、報道各社が初報段階で彼の氏名等をどのように扱ったか、というものを整理したものである。ネット上で拾った内容を順不同で並べたものである。なかには配信先が同じというのも含まれるだろうが、ウラを取るのが面倒臭かったのと、多寡は重要でないのでただ羅列しておく。

桜井はことあるごとに在日朝鮮人が犯罪を犯しても通称のみでしか報道されない、それこそが『在日特権』だと吹聴して回っていた。しかし今般自ら逮捕されてみると、図らずも、自分自身もその『恩恵』を享受してしまった。つまり、何のことは無い、こんなものは特権でも何でもないのだ。

警察によって誰かが逮捕されたことについて、報道するかどうかというのは、基本的には各報道機関の編集権に属する内容である。従って「報道をする/しない」「名前を出す/出さない」「実名/通名を使う」についても、各報道機関が其々の編集方針に基づき勝手に決めればいいし、実際にそう扱われてきたし、それに対してとやかく言うほどの価値もない。今般の報道についても、見てのとおり、各社各様だ。実名と通称の併記が多いが、通称のみもあるし、匿名もある。どちらかというと『桜井』に比重が置かれた扱いが多いように見える。

報道機関が、その個人の特定のために実名報道を選択したのであれば、社会的に認知された呼称を優先的に使用するのは当然なわけだ。例えば、芸名で活動している俳優が覚醒剤で逮捕された時は、芸名で連呼される。名を呼んでその個人と結びつかなければ意味がないのだ。
桜井は、『高田』より『桜井』のほうが社会的に認知されているから、そのように扱われた。それだけのことだ。少なくとも、朝鮮人が犯罪を犯した場合でも、実名か通名か両名併記によって個人は特定されているのだから、特権だ何だとヒガみ、旗持って当たり散らすような話ではないのだ。

桜井はいま、塀の中で、自らの吐いた言説が巨大なブーメランとして自らの身にブチ当たったことを、どのように考えているのだろうか?
多分懲りない男だから、せっせと言い訳を拵えるか、マスコミに入り込んだ朝鮮人の陰謀に仕立てるか、いずれにしても他者に転嫁して卑屈な人生に輪をかけるようなことをするであろう。
いずれにしても、哀れという他ない。



(20130619追記)

イムリーに記事を出してしまったが為か、多数のブックマークを付けていただいた。
しかし、私の言葉足らずも手伝って、かなりの誤解曲解を生んでしまったようだ。どこかの政治家のように「読解力不足」と開き直る気はない。私の記述力不足だ。
追記によって、軌道修正を試みる。

1.前段は、私の犯罪報道に対するスタンスを、一般論として示したものである。後段の個別事例(桜井が実名通称関わらず『個人を特定されて』報道された、ということ)に対するマスコミへの批判というのは、本論では論じていない。実際一定規模の犯罪であればすべて『個人を特定される』報道なのだから、桜井個人の個別事例を引き合いに、現在進行の一般事象を批判あるいは擁護する理由は無い。
2.後段の記述は、犯罪報道において、朝鮮人が本名を伏せられ通名で報道されるのは特権だ、という旨言い触らしていた桜井が、実際に逮捕されてみると、実名通称匿名と、各社各様に扱われていることを示している。在日の犯罪が「実名か通名か」、及び、今般の桜井の犯罪報道が「実名か通称か」と、いう判断は、各マスコミの編集権に属する内容であって、つまり各社各様なのであり、『在日特権』などと神話化するのは失当である。在日を批判したいがためになんでもかんでも持ち出して旗振って歩くのは馬鹿馬鹿しくないか、と申し上げている。
3.『恩恵』と書いたのは、実名通名通称に限らず、個人を特定されて書かれること自体が大きな不名誉であるのに、社会生活上通名を用いている在日朝鮮人が「別人のように書かれる」というつまらないことをもって「特権だ!」と旗振って歩いていたのだから、あなたもその『恩恵』を授かりましたよ、ということである。
4.在日の通名使用自体が在日特権だという言説に対する批判は、既にエントリーを持っているので、そちらに譲る。http://d.hatena.ne.jp/dattarakinchan/20110824/1314199920
5.犯罪報道とは、犯罪者の行為に対する批判としての報道であっても、発信者及び受信者が、その犯罪を起こした人種に対する憎悪の材料として回収するのは、ゼノフォビアの典型である。桜井及びその一派の言説というのは、『日本人と朝鮮人との差を叩く』ための屁理屈を日夜探し歩いているのであって、「朝鮮人の犯罪が起こっているのに、朝鮮人であると報道しないのはおかしい」と批判するのは甚だ失当であるということは言うまでも無い。彼らがそのような報道姿勢を要求するのは、自分らの悪趣味な活動のエネルギー(燃料、エサ)欲しさに口をパクパクしているだけなのであって、社会的な賛同を得られるような主張ではない。