いち在日朝鮮人kinchanのかなり不定期更新日記

はてなダイアリーから移行しました。古い記事ばかりになりましたが、ボチボチ更新していこうと思います。

Amazonでベストセラー? 「在日通名大全」 — 差別のための労力と屁理屈

先日取り上げた「国葬議」については、圧倒的大多数の日本国民が弔意を示すことを当然とし、それに同調しない者に対し有形無形の圧力をかけるのではないか、と予想していたが、どうやらそれは大きく外れたようである。どの世論調査を見ても(Twitter等の母集団形成が怪しいものは除外して)、国葬実施反対が賛成を上回っている。
国葬で祀られる安倍の資質や資格を語る者、法的手続の不存在を訴える者、「内心の自由」の侵害を問う者、財政の観点から批判する者、統一協会というカルト集団との関係から安倍の再評価をして転ずる者(今更感はあるが)、様々である。
対する賛成論者の意見は、(自分らで葬式やお別れの会程度をやること自体は誰も止めていないが)国葬と一般的な葬式を意図的に混同し、いつもの界隈の連中が念仏のような反芻を繰り返すだけでまったく説得力が無い。
英国女王の死去も影響して、国際的にもまったく盛り上がりが無くなってしまった国葬を、自民党は意地でも強行するようだが、私が憂慮していた「市民の分断」ほどの威力は、今となっては持ち得ない。弔意を示さないことが平常運転となりそうだ。それだけでも、「良かった」と思える。
国葬については、歴史的な評価は固まりつつあるので、これ以上書かない。

 

さて、

日頃、amazonで本を買うことが多いのだが、信じられない本がベストセラーになっていて、腰が抜けそうになったので紹介しておく。
(一応リンクを貼っているが、この本のレヴューを参照いただくためのものであって、書籍の購入を推奨しているわけではない。お断りしておく)

 

 

まさかの、「在日通名大全」である。
ザイニチが使っている通称名によくあるものを挙げて論じる、という「学術本」らしい。


紹介文にはこうある。

『在日通名大全』は日本初の在日コリア人の通名を研究した本です。「在日」は在日外国人の略称であり、本書では特に在日韓国・朝鮮人に限定して使用します。また、大韓民国朝鮮民主主義人民共和国のどちらかを支持するわけではないので総称として「コリア」と呼ぶことにしました。通名を多く知って在日との関係改善に役立ててほしいと考えています。 本書は『官報』の帰化の記録に記載のあるすべての通名9,672個を収録しています。特にその語源に関心のある名字810個には◎をつけて判別できるようにしました。あなたの名字、知人の名字はありますか? 100人以上記載のある重要な通名363個には推定人口と帰化人数を記しました。どのような名字を思いつきますか? 付録として大韓民国の姓ランキング、コリア人の個人名、創氏改名、本貫の項目を収録しました。大韓民国の姓で上位10個は多い順に金李朴崔鄭姜趙尹張林。ほかの姓は知っていますか? 巻末で1959年、1980年、1952年から1995年の通名ランキングを記載しました。1952年から1995年のランキングは100人以上記載のある通名363個の順位であり、本書で初公開のデータです。全数調査の結果では新井は2位。果たして1位は何でしょうか?

 

官報を繰ってまでしてザイニチの通名をあげつらう、という行為が何を意味するかは、論じるまでもない。個人をザイニチに特定して、差別や選別のネタに使うことを扇動・幇助する行為、それ以外に無い。実際の出自及び自己認識がどうであるかは関係ない、差別扇動のための書籍である。

そもそも、「ザイニチである可能性が高い苗字」を理解して、その氏の者と接触し、どのような過程を経て『在日との関係改善』が成り立つのか?

屁理屈にしても出来が悪い。

 

出版社が、よりによって、あの「示現舎」である。学術研究と称して各地の被差別部落を練り歩き、被差別部落と、その周辺の「部落でない」土地とを比較して嘲笑し、至るところでトラブルを起こしている、あの悪名高いYoutubeチャンネル「神奈川県人権啓発センター」を運営する、あの「示現舎」である。まさに差別をメシのタネにする唾棄すべき出版社の、差別を意図した書籍が、こともあろうに、Amazonのベストセラー、である。まったく、どうかしている。

 

これを見た瞬間に思い出したのが、「部落地名総鑑」事件である。1975年ごろに、どこが被差別部落かを詳細に記載した書物が次々に出版された事件である。これを企業が買い求め採用活動等に活用されていたというのだからおぞましい。どのような経過をたどった事件か、参照してほしい。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%83%A8%E8%90%BD%E5%9C%B0%E5%90%8D%E7%B7%8F%E9%91%91

 

差別心が芽を出すとき、差別する者の最初の行動が、「我」と「彼」を隔てる差異を見つけることである。その後、「我」を上げたり「彼」を下げたりすることで、属性そのものを貶める差別行為へと繋がっていく。
インターネット上で、動画サイト上で、「あの芸能人はザイニチではないか」「亡くなった○○は実はザイニチだった(隠していた)」という言説が消えたことは無い。例えばある芸能人のスキャンダルがあれば、早速「目元が半島顔だ」とか「氏が○○だから本名は△だ」とか、ザイニチ認定が積みあがっていく。暇つぶしにちょうどいい、罪悪感の無いライトな差別コンテンツなのだろう。
事実かどうかは関係なく、叩くことを正当化する記号として、ターゲットをザイニチにするわけだ。醜悪そのもの、と言わなければならない。

 

日本の植民地政策における「創氏改名」で、朝鮮人が先祖由来の姓を棄て日本人風の氏名を付けさせられたのが、ザイニチの「通名」の、ほとんどである。朝鮮の姓に一文字足したり、地域や祖先の文字を当てたり、どうにか朝鮮のルーツを残そうとした。例えば金であれば「金山」「金本」「金城」「金海」などとなった者が多い。
しかし当然に、これらの氏を使うからといって朝鮮人の証明にはならず、朝鮮になんの関わりの持たない者も多い。それこそ木村や田中など、日本人のトップ10に含まれる氏を付けた朝鮮人も少なくない。
調べてもどうしょうもないものを、何故に書籍にしてまであげつらうのか?

「差別心を満たすため」としか説明がつかない。

 

私は大学生のときに、本名とともに取りついた「通名」を、自らの民族的アイデンティティの自覚に基づいて消除し、以降すべての社会生活に本名を使用して過ごしてきた。ザイニチが社会の中で顕在化して日本人個々と生身に交流するほうが差別は氷解するだろう、という(今から思えば陳腐な)理由からであったが、いまでもこのことで、名前を見てケンカを吹っ掛けられたり、客からクレームが入ったりする。わざわざ詳細は書かないが、ケッタクソ悪い思いを散々してきた。それだけ「朝鮮人差別」はポピュラーな差別なのだろう。
これが齢40を過ぎて社会的立場も伴ってくると、逆に「差別もあるだろうに本名を名乗ってて偉い」だとか「ほかのザイニチも金さんみたいに本名で生活すればいいのに」とか、私にアピールする意図で軽薄なコトバを向けてくる者も現れてくる。「俺には差別心は無いよ」というアピールが痛々しく、何とも言えない気持ちになる。

 

何故に多くのザイニチが出自を隠し、通名を用いて生きているのか、3秒ほど脳味噌を動かせば分かるだろう。多くのザイニチが日本社会の中でザイニチとして顕在できないことが、何よりの証明ではないか。

まったくどうしようもない話だが、Amazonはフィルターがザルなのだろうか、コンプライアンス的にも非常に問題があると思うが、どうだろうか?