いち在日朝鮮人kinchanのかなり不定期更新日記

はてなダイアリーから移行しました。古い記事ばかりになりましたが、ボチボチ更新していこうと思います。

『在日特権』のイチャモンを笑おう ― 大学センター試験の外国語試験における韓国語科目は在日特権らしい

昨年、余りのヘイトデモの醜悪さにより社会問題化したことも手伝って、ネット空間に蔓延る『在日特権』なるものに対する反証を試みる書籍等も、ぼちぼち流通するようになってきた。結果、流石にこの種の言説の虚構性及び差別性に問題意識を持った市民の意見表明なり行動なりも、ぼちぼちであるが増えてきたような気がする。

もっとも、完成形を迎え最早人間としての基礎能力を失った国士気取りのネトウヨ、及びそれに無学習無批判に群がる者どもは未だに『通名を使えるのは特権だ』『タダで年金もらって』『不法越境者なのに特権階級』と、何とかのひとつ覚えのように唱えては自己洗脳に磨きをかけている。
彼らは新ネタの開発にも余念が無い。
(1)「日本人」より「ザイニチ」が得をしている、
或いは、
(2)「他の外国人」より「ザイニチ」のほうが得をしている、
もっと進めて、
(3)韓国や朝鮮に住む「韓国人/朝鮮人」より「ザイニチ」のほうが得をしている、
という図式を、捏造を持って拵えるか、誤解や偏見や妬み嫉みを持って針小棒大に語るかして、独善的に在日朝鮮人一般を攻撃している。

自分の人生に何の接点も脈絡も無い(フィクションである部分も多分に含んだ)在日朝鮮人一般わざわざ持ち出して、叩き、罵り、悪態の限りを尽くし、それでようやく優越感に浸れ、自尊心を取り戻せるというのだから、その恐ろしいまでのプライドの低さ、人格の低劣さ、と言ったら、「哀れ」「蔑み」という感情しかない。

彼らが持ち出す『在日特権』の中でも、極めて馬鹿馬鹿しいもののひとつに、『大学センター試験での在日優遇』というのがある。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%A8%E6%97%A5%E7%89%B9%E6%A8%A9#.E5.A4.A7.E5.AD.A6.E5.8F.97.E9.A8.93.E9.9D.A2.E3.81.A7.E3.81.AE.E5.84.AA.E9.81.87
要約すると以下のとおりだ。
・大学センター試験の外国語科目の中の「韓国語」の平均点が「英語」より高い場合が多く、結果「韓国語」の受験生が有利である。
・「地歴」「公民」「理科」の3系統は、科目間に一定以上の有利不利が発生した場合、得点調整が行われるが、外国語科目では行われない。
・「韓国語」の受験者は、多くが朝鮮学校在日コリアン民族学校出身者であり、これでは殆どの場合「英語」しか選択肢の無い日本人の受験者より有利で、特権である。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:The_graph_of_average_score_of_Foreign_languages_(National_Center_Test_for_University_Admissions).jpg



もう、お笑いだ。チョーセンが憎ければ、支離滅裂なことでもクソ真面目に書く発想は、本当に笑うしかない。
この言説の問題点を、思いつくままに、箇条に記す。


○先ず、第一に「韓国語」の受験は、何も在日コリアンでなければ受験できないわけではなく、誰でも好きな科目を受けられるのだから、これを在日コリアンの身分を攻撃する材料にすること自体が邪な発想である。


○「英語」以外の科目、即ち「ドイツ語」「フランス語」「中国語」「韓国語」の受験者が、一般的なキャリアの高校生以外の割合が大半であることは至極当然のことである。圧倒的大多数の受験生が高等学校までで学習する外国語教科は英語のみであるからである。しかし、例えば「フランス語」も「英語」より平均点が高い年度が大多数であるが、フランスからの帰国子女が同じ系譜で、「問題が簡単なのでは?」とか「得点調整しろ!」とかと槍玉に上がっているだろうか?否である。朝鮮人が気に入らないから槍玉に上げているに過ぎない。


○前項のとおり、「英語」以外の外国語科目の選択者は、帰国子女ないし民族学校出身者であると想像できるが、このうち「ドイツ語/フランス語」は帰国子女が大半で、玉石混合の「英語」受験者母集団と比較して当該言語の涵養度の高い集団であると容易に想像できる。対して「中国語/韓国語」は帰国子女と民族学校出身者の混合であると考えるが、うち帰国子女は前述と同様のことが言えるし、当該民族の言語の習得が存在意義の最たるものである民族学校の卒業者が受ける言語教育は、外国語として教育を施す日本学校の英語教育と比較してまことに旺盛なものであるから、玉石混合の「英語」受験者母集団と比較すると、やはり言語能力の涵養度は高いと言える(朝鮮学校朝鮮語教育の実際は後述)。このことから「英語」受験者より、他の言語の受験者のほうが平均点が高い、と言うのは、決して不自然な姿ではないし、一概に不公平な状況とも言えない。


○これは技術的な話になるが、日本の公教育における外国語に「英語」しかない状況で、「高3英語」に比肩するレベルの「ドイツ語」「フランス語」「中国語」「韓国語」がどのレベルなのか、というのは非常に高度な言語学レベルの話である。例えば現状の「英語」科目のレベルを、アメリカやイギリスの公教育の国語で測定し、仮にそれが“高3レベル”なら、他言語の試験も同学年で比肩させるとか、様々な工夫をし、厳密かつ緻密に試験問題を構成するというのが現実的な落としどころかもしれない。しかしそれでもなお、それぞれの科目間でレベルを擦り合わせるには自ずと限界があることくらい容易に想像がつく。Wikipediaによると平均点を他言語に合わせようとする余り、中国語と韓国語は難しすぎるという話があるくらいだ。


○私が朝鮮学校の卒業生だから言える話だが、朝鮮学校卒業者の朝鮮語の能力は概して高い。言うまでも無く朝鮮学校の生徒は母語が日本語であるが、初級学校1年生から高級学校3年生まで徹底的に朝鮮語を習い、その能力を磨いている。数学や理科系の科目であっても朝鮮語で行う。授業で日本語を用いるのは「日本語」の授業の時のみだ。そして学校内での日常会話も、なるべく朝鮮語で行うように呼びかけがなされている。このような圧倒的な言語的環境が、朝鮮語の能力を確実に向上させていく。確かにネイティヴに比べれば語彙数も少なければ発音も悪いが、個人間のレベルの差異はあれど、概ね中級学校に進むころになれば、日常会話は苦にならないし、読み書きも難なくできる。韓流ドラマも字幕なしで理解できる。翻訳もできる。その程度のレベルには殆どの生徒が達する。
ちなみに私は朝鮮学校の現役生徒時代、国語(朝鮮語)が苦手な科目の一つだった。私の朝鮮学校での3言語の成績は概ね、「日本語10:英語9:国語(朝鮮語)7」という具合だった(朝鮮学校の評点は絶対評価制)。それでも、韓国に旅行に行って看板の意味が分からないとか、会話が成立しないとかは無い。5年ほど前に力試しに受験した韓国語能力検定は最上級の6級に合格したし、会社ではバイリンガルの扱いだ。朝鮮学校の生徒のレベルとは、その程度の「大したもの」なのだ。参考までに、朝鮮学校の科目単元数と、日本学校との比較資料を参照願いたい。http://urhk.jp/curriculum


○逆に、日本の公教育で行われる「現代文」「古文・漢文」の授業単元数に対して、帰国子女及び民族学校出身者のそれは相対的に少ない。朝鮮学校では、上記科目をひっくるめて「日本語」という教科で学び、(現在はどうなっているかは知らないが)現代文と古文が順繰り回ってくるような感じで授業がなされていた。従って、『在日特権』と吹聴する連中の理屈に倣うと、朝鮮学校出身の受験者は「国語」の受験で不利を被り、圧倒的大多数の受験者は『特権』を享受していることになるが、そのような主張を語る者は皆無である。結局ご都合主義である。



もっとも、試験である以上公平性や妥当性の担保は継続的になされるべきであるから、例えば「韓国語」科目が極端に平易で他の受験者との公平性を毀損するような客観的な事象を認めるなら、大学入試センターが学術的な根拠に基づき難易度の変更なり事後の得点調整なりを堂々とすればよろしい。客観的根拠に基づけば、それは誰も反対はしないはずである。
朝鮮人に何か文句を言いたい衝動を抑えられないからといって、「英語」より「韓国語」のほうが平均点が高い、と都合良く表層を捉えて特権呼ばわりしてしまうメンタリティは、最早笑いの対象でしかない。実際の受験生の弛まぬ努力や誠実な態度に対しても、余りに失礼な物言いとも思える。
人種に対する差別心とは、ここまでに発想を貧困にし判断力を鈍らせ人格を醜くするのか、と呆れている。