いち在日朝鮮人kinchanのかなり不定期更新日記

はてなダイアリーから移行しました。古い記事ばかりになりましたが、ボチボチ更新していこうと思います。

嫌韓本ブームは去ったのか & 韓国の書店に『反日』本は溢れているのか

数年前、いわゆる『嫌韓本』が巷に溢れていた。


https://n308.xsrv.jp/2017/09/05/post-309/



http://etc8.blog.fc2.com/blog-entry-2363.html

タイトルを見る限り、おおよそこんな感じである。

・日本はいいことをしてやった、インフラ整備してやった、国力を朝鮮に注ぎ込んだのに感謝しない、という、頼んでもないのにリフォームしてやったと開き直る押し売り根性丸出しの言説

・韓国社会の後進性、民主主義の至らなさ、貧富の差、社会資本の未熟さ、街の汚さに対する嘲笑

・韓国人のモラルの無さ、容姿の醜さ、服装の淫猥さ、習慣の卑しさ、人糞がなんだ、整形がどうだ、女の股がユルいだ、等のステレオタイプのこき下ろし

・出身地や政治的意見やスポンサー契約の企業などをあげつらって、◯◯はザイニチだ、◯◯は反日だ、などと「敵」として指し示すこと

総じて、嘘や誇張が乱用され、一部を全部に当てはめ、属性や出自で決め付ける、偏見と差別主義と植民地主義が丸出しの、乱暴かつ破廉恥この上ない論調である。

普通の感覚なら、このような記事はファクトチェック云々の以前に、ナチ的憎悪扇動として流通させてはならないものだ(少なくとも出版業の良心かあれば)。しかし、このテの新刊本が次々と出版され、書店のポールポジションに平積みにされた。週刊誌も同じような論調の、汚い言葉を表紙に踊らすことを、各社で競っていた。それが、つい数年前までの、書店の光景であった。


http://www.cyzo.com/2014/01/post_15798_entry.html


https://blog.goo.ne.jp/raymiyatake/e/81d5646ab289514cf3ddb4b5cafec519

加えて、ほとんどは、韓国側(この言い方の時点でかなり頭が悪い言い方だが敢えて)の立場を支持する者は全部韓国人あるいは反日に認定するなどの選別(切断)も頻繁に活用されていた。結語に「韓国(人)とは付き合うな」「相手にするな」「縁を切れ」との扇情的な物言いを置くことにも抵抗感が無かった。
ところが、関係の断絶を何年も散々呼びかけているにもかかわらず、当の本人らが自ら縁を切って、『韓国(人)をネタにしない言論』を展開するそぶりは、何故か見せようとしない。逆に、自ら敵のテリトリーに何度も足を運び、自ら関係をこじらせて回り、相手もしていないのに喧嘩を売り、トラブルやいさかいを欲し、根掘り葉掘り深々と、韓国を嫌悪するための新しいネタはないか、と探し回っている。関係を断絶する気を、本人らからは微塵も感じることはできない。
前々稿の「余命日記」にも通じるが、攻撃や断絶をけしかけるのに自らは実行しない。自らは、韓国を専ら道具にして商売に勤しみ、韓国に積極的に関わり、韓国をビジネスパートナーとして徹底的に利用する。このサマのみをもって分かることで、端的にこいつらは、単なるインチキ連中である。

このような連中の書いたデタラメな本が、一部の日本人によって、『日本人であること』の自尊心のために、または自らの劣等感を糊塗するために、『卑しい韓国(人)』を味わうために流通する。このような悪趣味かつ学の浅い、ナチ思想と瓜二つの連中が日本社会の一部に確実に存在し、これら書籍の多くが受け入れられた。
しかしネタの新鮮味が徐々に乏しくなり(要はこのような悪趣味な著述者の構成に変化や拡大がなく、相互コピペが横行していた)、入れ替わるように『ニッポンスゴイ』ブームが隆盛し、最も重大なことにはこれらのネタを収集し鑑賞すること『自体』の卑しさへの自覚が浸透したことによって、急速に萎んでいった。



さて、数年前まで嫌韓本の平積みによって侵されていた書店は、私の足を遠ざけていた。本を買うのはもっぱらAmazon等のネットショップであって、なかなか店頭でじっくり本を詮索する気になれなかった。しかし嫌韓本がコンテンツとして収束しつつあるという情報を自らの目で確認したくなって、先日、大阪市内の数軒の書店に立ち寄ってみて、現状を検証してみた。




一時期、嫌韓本ばかりを良い場所に平積みしていた書店に立ち寄ってみた。ポールポジション百田尚樹に奪われているのはご愛嬌としても、嫌韓本は見当たらなかった。代わって橋下の本が置いてあったが。









雑誌コーナーの論壇誌の構成は相変わらずだったが、『あの』時は足元まで平積みしていたのに現在は棚で表紙を向けているのが数誌で、他は刺している。極一部に残るコアな嫌韓読者たちのために、配本されてきたやつだけは並べておこう、という程度のようだ。









ドぎついタイトル『嫌韓朝論(!)』が目につき、思わず手に取る。いつものメンバーが書き連ねている。客は細くなったのに演者が代わり映えしない。
あ、逆か。演者演目が同じの安い芝居が客を遠ざけたのか。









前3枚とは別の書店2店で、新刊本のコーナーで撮影した。他の政治関連やビジネス系の新書と混ぜてポツポツ置いてあった。嫌韓本でカテゴライズできるほどの出版数が無いのだろう。えげつないPOPなども皆無。あくまで並置、である。









しかし、どの書店に行ってもケント・ギルバートの本が平積み扱いなのには驚いた。種類も多い。AmazonのレビューやTwitterで情報収集する限り、エビデンスの裏付けに乏しい、とてもまともに読める著者では無さそうなのだが。一応インテリの扱いなのだろうか。










どうやら、嫌韓本が幅を利かせ、書店が知識や教養ではなく偏見と差別扇動を売っていた時代は、(私が数店舗の書店を見回る限りだが)終わりを迎えていたようだ。いくらか健全さを取り戻していて、胸を撫で下ろしている。
代わって「世界から尊敬されるニッポン」とか「安倍ちゃんスゴい」とかが平積みされていたが、これはこれで気が向けば追々書こうかと思う(多分書かない)。



翻って、嫌韓本が大量に平積みされていた時代、「ヘイトを商売にするな」と批判していた側には、様々な罵声がネトウヨ界隈から浴びせられていた。
表現の自由だ」「事実だからいいだろう」という頭の悪い言い分と並んで、「韓国も反日の書物ばかり並べているのだろう」という想像から来る文句も含まれていた。
私は年に数回韓国を訪れ、書店に何回も立ち寄っているが、そのような光景に出会ったことがなく、不思議なことを言うものだと思っていた。

実際、韓国の書店の、『反日』の扱いはどの程度のものなのだろうか、私が今夏に訪れた書店の風景をリポートする。確認してほしい。



訪れたのは、鐘路1街にある「鐘路書籍」という書店だ。ネットで「ソウル 書店」と韓国語で検索したら上位に出てきた。広い店内に、本がゆったりと並び、ゆっくり見て回れる。カフェやフードコートが至近にあり、ムードもよい。老若男女で言うと、若い層、女性向けが若干多い印象だが、何でも手広く置いている、有名な書店のようだ。







早速『反日』本を探して政治論壇系統や哲学系統の本を当たるが、南北関係の書物が圧倒的に多い。やはり南北首脳会談の熱が冷めていないこともあり、関心は高いようだ。早期の統一を目指す論調、冷ややかな論調、様々だ。









なおも探し歩く。中国に関する書籍は多い。歴史書、思想関連、リーダーに関する論評、様々だ。
しかし、というかやはりというか、『反日』本は見つけられない。どころか日本に対する論評の書が無い。『韓中日世界史』という本はあったが、近現代史の概説本。とても『反日』ではない。









世界の有名な作家による作品を集めた文庫本のコーナーで、太宰の「人間失格」を見つける。これに限らず、ビジネス書や文芸書で、日本の作家の作品を翻訳したものを見つけるのに苦労はない。










数年前に流行った「もしドラ」もあった。写真に撮るのを忘れたが、漫画本のコーナーでは妖怪ウォッチとかドラえもんなどが翻訳版で並んでいる。










旅行書のコーナーがあった。日本行きの旅行書が最も部数が多い。ほとんどが国名別で発行されているのに、日本向けのものは都市別がほとんど。「東京」「大阪」「福岡」「四国」など。最も近い外国なので当然ではあるが、何だか嬉しい気分になる。









「大阪で宝探し」という児童向けの旅行書。大阪城通天閣海遊館などのイラストが並ぶ。











カルチャーのコーナーに、「伝統剣道」という本があった。前後の本がスポーツというわけではなく、脈略のないところにポツンとあったので笑ってしまった。記念に撮っておいた。










どうやら『反日』本どころか、日本の政治風景を論評する書籍は一切ないようだ、という結論を得て帰りかけたところ、一冊平積みで置かれていたのがこれ。「東京30年、日本の政治を貫く」という本。日本在住の韓国人教授が、日本の政治風景を緻密に書いている。パラパラと立ち読みしたが、30年の日本在住・研究歴からあくまで客観的な日本の政治レビューであると感じた。安倍の民主主義の手続を経ない政治手法をかなり批判的に論じているが、このことをもって直ちに『反日』と切り捨てる者は、たとえネトウヨでも少数だろう。興味があるなら、この本のレビューが書いてあるURLを紹介するのでご覧いただきたい(韓国語)http://www.yes24.com/24/goods/65121109




写真は撮ら(れ)なかったが、ほか数軒の小規模な書店を見ても結論は変わらない。
反日』どころか、日本の政治風景を論評する本に出会うことは難しい。要は特段関心がなく、本に出すほど売れない、ということだろう。
韓国の国際政治を論ずるうえで、日本は、中国・米国・ロシア・朝鮮などと並ぶ外国の一つであって、本に限らず、ニュースやワイドショーを見ても、日本の政治ネタは、日本のワイドショーのそれと比較しても、はっきり言って少ない。
(私は数年前から韓国語の勉強のために、休みの日はKBSやMBCのニュースを流しっぱなしにしているが、安倍晋三が出てくる頻度は、習近平やトランプや金正恩の頻度より格段に少ない)

代わりに、日本の文化やビジネスモデルに触れようとする書物、日本の優れた文芸作品の翻訳本、行き先が日本の旅行書、日本語のテキスト、日本の漫画キャラクターなどは、探さなくても至る所にある。一度見に行ってみればいい。心配しなくても日本文化は深々と韓国に浸透している。

日本と韓国は断交せよ、という頭の悪い主張を繰り広げている連中や、日本と韓国が仲違いすることで利益を得たり政治的延命を図ったりといったよこしまな連中は、いい加減このへんで放っておいて、お互いの文化、特に優れていたり美しかったりクールだったり、という文化の交流を、何のわだかまりもなく続けていきたい、と思う今日この頃、である。