『在日特権』のイチャモンを笑おう(2) ― 在日韓国人の兵役が免除されているのは在日特権らしい
在日朝鮮人当事者からしたら本当に馬鹿馬鹿しい『在日特権』妄想は、日々韓国・朝鮮を責める材料を集めないことには精神の平静を保てない国士様方の創作活動によって日々創造されているのはご承知のとおりである。
その中でも馬鹿馬鹿しさが群を抜いているものに、以下のものがある。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%A8%E6%97%A5%E7%89%B9%E6%A8%A9#.E4.B8.80.E8.88.AC.E9.9F.93.E5.9B.BD.E4.BA.BA.E3.81.A8.E6.AF.94.E8.BC.83.E3.81.97.E3.81.A6.E5.84.AA.E4.BD.8D.E3.81.A8.E6.8C.87.E6.91.98.E3.81.95.E3.82.8C.E3.81.A6.E3.81.84.E3.82.8B.E4.BA.8B.E6.9F.84
曰く、
「一般の韓国人男子が兵役の義務を負っているのに対し、海外永住権者等、一定の条件を満たす者は兵役を免除されており、特権である」
…
…
…
まぁ、とりあえず思いつくままに箇条に記す。
○韓国の徴兵制度と、在日韓国人の兵役免除について、概要を記す。
*韓国の男子には18歳から第1国民役に編入され、兵役の義務が発生し、徴兵検査を受けなければならない。
*徴兵検査の結果、身体精神上兵役履行に支障がなければ現役、軽度の心身故障がある者等は補充役あるいは公益勤務要員、重度の心身故障等は兵役免除となる。
*在日・在米韓国人などの外国出生者、満6歳以前国外出国者は満17歳まで該当国で暮らしその国の国籍や市民権永住権等を取得していると、兵役義務が賦課されない。これを「在外国民2世制度」と言う。
このような制度のもと、私のような者(普段私は在日朝鮮人と自らを称しているが韓国籍であり、大韓民国のパスポートを所持している)は、兵役が免除されている。通常第1国民役に編入された韓国人男子は、韓国から国外に出国の際には『国外旅行許可』を必要とするが、我々在日韓国人には兵役が付加されない。従って、在日韓国人男子が韓国に旅行に行く際には、事前に駐日本韓国大使館・領事館等に赴き、『在外国民2世』を証するスタンプをパスポートに押してもらう必要がある。これが無いと韓国からの出国審査時に『国外旅行許可』を得ていないとして、空港に設置されている兵務庁の事務所で事情聴取を受ける羽目になる(実際に私の知り合いに事情聴取を受けた者が居る)。
○何故に在外の国民に兵役が賦課されないのだろうか。徴兵制という制度はその名のとおり「兵」を「徴集」する制度である。国家権力が強制力を以て兵役に就かせることができて、はじめて制度が維持されうる。兵役を逃れようとする者に、軍本隊なり警察なり出入国管理官なりが強制力を使えることが必要となる。この点で、自らの施政権の及ばない日本に住み、本国に永住帰国することが前提になっていない在日韓国人に対し、一般に兵役が賦課されないのは自然な措置である。なお、永久帰国申告(永住権等を放棄して韓国に居住する旨申告すること) するか、韓国に通算3年在留すれば兵役は賦課される。
○韓国は分断国家であり、朝鮮とは休戦状態にある。正確には戦争は続いているのである。朝鮮半島では南北でそれぞれの政府が正当性を主張し互いに『北韓』『南朝鮮』と呼び合って対峙しているが、これに対し在日コリアンはそこまで一方の政府のみに帰属を表明し、対する政府に明確な反対姿勢を取っている者ばかりではない。私のように「南も北も我が祖国」と思っている者もいるし、韓国のパスポートを所持しながら明確に朝鮮政府への忠誠を誓っている者さえいる。韓国の徴兵制度ではいわゆる「脱北者」に兵役は賦課されないが、その意味でも本国の一般国民より国家への忠誠心に疑念がある在日僑胞に兵役を付加しようという制度設計は、安全保障上も考えられないのではないだろうか?
○軍人は集団行動を旨とし上長の命令で全てが拘束される。言うまでもなく、コトバが理解できない者が兵役を務めることは、履行側、受入側、双方が困難を極める。私のように韓国語を理解できる者は兵役賦課世代の在日韓国人の中では少数派だ。大多数は日本語しか理解できない。在日韓国人を仮に兵役に就かせたとしても、履行期間の大半は韓国語の学習に費やされることになってしまう。
○韓国には徴兵制が国民一般に賦課される故、行政や社会共同体に兵役履行者の便宜を図るあらゆる措置が施されている。例えば大学生男子年齢的に大学1〜2年生が徴兵の履行時期だが、休学して兵役に就き、除隊後復学のうえ就職する者が多い。除隊後も予備役訓練に年に数回召集される。このため大学や会社には休学や休職が円滑に行える制度設計がされている。即ち、徴兵制度と行政や社会共同体における支援制度が一体で構築されていなければ、制度は不全のものとなる。在日韓国人は日本の住民であり、日本の社会共同体等は当然に外国での兵役履行など想定していないが、そんな中で在日韓国人が兵役を履行するには、兵役履行本体とは別個かつ別の種類の困難が存在することは指摘しておかなければならない。
○ちなみに、韓国の兵役法には在外国民であっても入営を志願すれば兵役を履行できる制度は存在する(韓国兵務庁の案内参照(韓国語)http://www.mma.go.kr/kor/s_navigation/travel/travel08/travel081/1214560_3558.html)。例えば米国の永住権を持ちながら韓国内で活動する芸能人などが、世論の圧力(兵役免除に対する僻み)に応えて兵役履行を志願した事例などがある。但しこれは韓国語ができるとか韓国に生活の拠点がある等、かなりレアなケースであり、生活の本拠が完全に日本である在日韓国人一般が検討できるような話ではない。
…
…
…
書き進めてはみたが、根本的な話をする。
在日韓国人が本国の韓国人男子と比較して『兵役が賦課されない』という措置を受けているのは韓国の国内法の適用に関する話である。これを本国に住む韓国人が我々在日僑胞を羨ましがることがあったとしても不思議はない。韓国人男子にとって兵役の履行は誰もが通る道ではあるが、辛いものであり「できることなら避けたいこと」であることに疑いは無い。兵役に行きたくて行く人間など、ほぼ0%なのだ。韓国内で、特にネット上で、我々在日韓国人を『特権者』呼ばわりする論調が生まれる可能性も、否定はしない。確かに仕事で関わった韓国人は私のことを羨ましがっていた。
しかし、である。韓国の兵役に何の脈略も無い日本国民から、ザイニチ一般を蔑み攻撃する系譜上で『在日特権』呼ばわりされる謂われは、全く無い。日本人一般に兵役は存在しないし、自衛隊を除隊したものでなければ補充役訓練も課されないし、日本国憲法上の義務に「国防の義務」も存在しない。自分らが負わないものを、在日韓国人に「履行せよ」とは、どの口が、どの理屈で言うのだろうか?全く理解できない。
結局、このような言説は「チョーセン人は日本から出ていけ!」と全く同義と言っていい。「お前ら韓国人には徴兵があるはずだから日本から出て行って勤めて来い」「できればそのまま帰ってくるな」と。憎きザイニチに苦役の一つでも与えてやろうという欲望所以の言説である。屁理屈以上のものではない。
まぁ、こんなものは言わせておけばよい。