いち在日朝鮮人kinchanのかなり不定期更新日記

はてなダイアリーから移行しました。古い記事ばかりになりましたが、ボチボチ更新していこうと思います。

拉致問題の解決と朝鮮学校への圧力が何で結びつくのか全然理解できない。

法律家なのに筋が通らないことを平気で垂れ流す橋下大阪市長と、そのコバンザメ松井大阪府知事のコンビになって、独善的な価値尺度で少数者を敵にして多勢の歓心を買うという愚政の手法が東京同様に安売りされつつある。
自分が住む地方自治体の首長を気に入ろうがそうで無かろうが、私は月額2万円弱の府民税と市民税を給与天引で否応なく持っていかれる。別に税金払ってるんだから、などと言うつもりは無い。税金を払うのは当たり前だ。私は一時的な渡航者ではない市民(永住者)なのだからそれで当たり前だ。しかしながら、このように私も市民の一員であることには違いが無いようなのだが、少数者であることを理由にさっさと切り捨てる彼らの政治手法には、強い抵抗感を覚える。
彼らは虚構を含めての印象操作で多勢の支持さえ得れば、少数者を切り捨ててもOKだと思っている。どうやら彼らには『民主主義』と『多勢専制』の区別が付いていないようだ。三流大学の法学部を出た私でも知っている理屈が、形式とはいえこれほどまでに軽視され、絶対的大多数の者はそれを問題だとも思っていない。暗澹たる思いだ。

そんな橋下大阪市長は、朝鮮に対する「強い姿勢」ででも多勢の人気を拾ってきた。リーダーシップをアピールするには恰好の材料だからだ。「チョーセン」に関連するものであれば早々に思考が停止してしまう現在の日本で、「チョーセン」ほど理由無く悪者扱いされる対象は無いし、屁理屈をこねて切り捨てても文句を言う者は居ない。「チョーセン」ほど法律に基づかない恣意的な「運用」で如何様にもできる人種は居ない。無用の注目を受けているせいでパフォーマンス効果も非常に高い。在日朝鮮人を「強い日本」の生贄に差し出せば、簡単に点数が稼げる。政治屋にとって非常に都合がよろしいのが「チョーセン」なのである。

そして、またもや橋下政治の生贄に、朝鮮学校の学び舎と生徒が差し出された。



(引用開始)

北朝鮮拉致問題:大阪で「国民大集会」 橋下市長も出席
毎日新聞Web版 2012年2月5日 19時56分

北朝鮮による拉致問題を考える「国民大集会」が5日、大阪市内で開かれた。拉致被害者家族会は「金正日総書記死去で北朝鮮の体制が移行するのをきっかけに、日朝関係が動くよう、世論が協力してほしい」と訴えた。また、出席した橋下徹大阪市長は「(拉致問題を)絶対許さないということを言い続けることが政府はできないのか。腹立たしい気持ちだ。意思をはっきり示してほしい」と国の姿勢を批判した。
国と府、大阪市などが主催。拉致被害者田口八重子さん(行方不明時22歳)の兄で家族会代表の飯塚繁雄さんは「月日がたつにつれ、憤りと悲しみが盛り上がる。なぜ解決に向けて動かないのか」と訴えた。有本恵子さん(同23歳)の母嘉代子さんも「解決するのか不安がある。この問題を忘れないでほしい」と求めた。
集会では松原仁拉致問題担当相が「大阪府朝鮮学校への補助金支出に4要件を課したのは、被害者家族の心情を考えると高く評価できる」と発言。これに、橋下市長は「なぜ、国は補助金支出に厳格な要件をつけるよう、全国の自治体に指示できないのか」と批判し、「北朝鮮が正常な国になるまでは付き合いは一切しないという意思表示をはっきり示す」と話した。橋下市長が代表を務める大阪維新の会は、国政進出に向けて外交政策も盛り込んだ公約「船中八策」の作成を進めている。

(引用ここまで)



私はこの種のニュースを何度の目の当たりにして、本当に不思議で不思議で仕方が無いのだが、拉致問題を解決する手段として、何で朝鮮学校の生徒の処遇が云々されるのだろうか?朝鮮学校の生徒に人権侵害をして、拉致問題という人権問題が前進する訳が無い。事態は1mmも動かない。動くはずが無い。お門違いにも程がある。
拉致家族の関係者が「北朝鮮に誤ったメッセージを送らないために決して朝鮮学校の無償化は実現させてはならない」などという趣旨の発言をしていた憶えがある。よく分からない。朝鮮学校の生徒の学習権を侵害して朝鮮に送るメッセージとはどのようなものか?普通に考えると相手を硬直させるだけのメッセージだと思うが、何をしようとしているのか?目的と手段が合致していない。
日本政府は多国間で連携して拉致問題を解決しようと言っている(かの六カ国協議で日本が拉致問題ばかり言うので他国から相手にされなかったのが記憶に新しい)。しかし、朝鮮学校の生徒を捕まえて人質外交を展開して、国際社会がどのように受け取るだろうか、生徒への人権侵害に理解を示し一緒になって加勢して回るのか、あるいは明確に反対するのか、少し考えたら分かりそうなものだが、いかがだろうか?(興味があれば国連人権委員会で朝鮮高校の無償化問題がどのように議論されたか調べて見てください)。

拉致問題に毎度毎度朝鮮学校が引き合いに出される理由は何か?それは以下のような構図であると考える。
日本政府に朝鮮政府とのパイプが無いせいで、「圧力」しか朝鮮政府に切るカードが無い。当然に早速手持ちのカードを使い切って、新たな使えるカードを探し歩く。「内なる北朝鮮」の在日朝鮮人及びその資源がヒットする。これらは日本の法制度及び運用によって如何様にもなる。日本政府の掌に乗っている状態だから自分の思うままに圧力がかけられる。このように政治の無策を在日朝鮮人への圧力で穴埋めして茶を濁す。
…こう理解するとこの問題に対する理解が早い。
「チョーセン」で得点を稼ぎたい政治屋の連中が、むりくり朝鮮政府と在日朝鮮人、そして朝鮮学校を結び付け、難癖を付けて、なーんか仕事をした気になっているに過ぎない(この際の朝鮮政府とは、核とかミサイルとか拉致とか、ダーティーな部分のにこごりの抜き出しでしか価値判断していない)。手っ取り早く手柄を得やすいところに圧力をかける過程で、朝鮮学校が無理やり土俵に引きずり出されている。どこまでも彼らの都合、マスターベーションで、朝鮮学校にお門違いな厄介が持ちこまれているに過ぎない。

実際、橋下大阪市長は、たびたび朝鮮学校に彼の使者を仕向けては、教室や教科書、授業内容を隅々まで調べ上げ、朝鮮との関係を示す「証拠」を掘り出しては発狂するという沙汰を演じた(※)。朝鮮との関係を断て、断てばカネをやると恫喝したわけだ。気に入らない朝鮮人を自分が気に入るように矯正したとして大衆の喝采を得た。在日朝鮮人および朝鮮学校は、彼の支持率を押し上げるのに一役買わされたわけだ。何故に外国人子女に民族教育が必要なのかから始まって、朝鮮学校の成立過程、何故在日朝鮮人朝鮮学校を選択し続けているのか、実際の在校生卒業生がどのように感じ、どのように育っているのかはスットバシて、悪を成敗する正義の味方気取りだ。めでたい。

考えてみよう。国家という機関と、その国家に書類上属する国民は同主体ではない。仮に在日朝鮮人全員が全員「朝鮮の海外公民」であるという意志を明確に持っていたとしても(実際にそんなことはあり得ないのだが)、国家間の軋轢を、本国に選挙権も無い海外公民一般にぶつけられる理由が無い。駆け引きは朝鮮政府の外交官なり政府機関にすべきで、朝鮮学校の生徒にやっても意味が無い。例えば、高校無償化の受益者は生徒及びその保護者だが、「免除された学費が北朝鮮に送金される可能性がある」という跳躍的仮説を用いて、朝鮮高校への無償化適用停止の理屈のひとつにしている。補助金にしてもそうだ。受益者が日本の市民たる在日朝鮮人一般なのに、いつの間にか「北朝鮮」という国家機関にすり替えられている。このような国家レベルの壮大な屁理屈がまかり通ってしまう。「チョーセン」だからだ。
もっとも、老朽化が進み、教師への給料が慢性的な遅配に陥っている朝鮮学校のどこにそんな余裕があるのだ?朝鮮に送れるカネがあるなら、先に教師を食わすし、先に生徒のために必要なものをひとつでも買う。それができないほどカネは無い。生活苦から辞める教師、不足する設備と備品、割れたままの窓ガラスに壊れたままのブランコ… 関係者なら誰でも知っている朝鮮学校の厳しい実情だ。しかし国家レベルの屁理屈から出来上がった空気を前に、その事実に目を向ける者が居ない。

誤解を恐れずに言おう。連中に拉致問題を解決する気は無い。その証拠に目的と手段の不一致が過ぎる。
実際に拉致問題は一切進展を見せていない。万景峰号の入港が止まったり、あらゆる輸出入が制限されたり、行政による朝鮮総連各機関への敵対的行動がなされたり、善良なデモ参加者がよく分からない理由で逮捕されたり、果ては朝鮮学校への高校無償化停止補助金停止など、日本政府はもうかれこれ5年以上「内なる北朝鮮」に圧力をかけている。しかし事態は1mmも進んでいない。効果の無いことは既に実証済みなのに、同じことを飽きずに続けている。この事実を前に、未だに学習できないということならば、絶望的に頭が悪いということになるが、一応偉いらしいので、戦略的にやっている、つまりパフォーマンスの材料として利用するだけ利用するためにそうしている、ということになろう。

日本が拉致問題の解決を望むなら、日本と朝鮮との交流を再開すべきだ。交流が無ければ、交渉の前提条件が生まれてこない。日本政府と朝鮮政府がさっさと国交を回復し、少しづつ相互の信頼関係を築き前進させていくしかない。ヒトや、モノ、情報の流通が完全に遮断され、両国間に信頼関係を築く理由が無いなかで、高度な政治レベルの話など出来るはずが無い。(一応言うが、拉致解決を望まないにしても国交交渉は日朝外交の優先課題であることに疑いは無い。こんな不正常な状態はさっさと解消されなければならない。)

青春を謳歌すべき朝鮮学校の生徒に、日本社会の敵愾心を扇動している場合ではない。そんなことをして拉致問題は動くか?動かない。絶対に動かない。政治の不在の穴埋めに、朝鮮学校の生徒を犠牲にするのは、いい加減止めなければならない。日本社会の感覚の劣化を、早く食い止めなければならない。



(※)伝聞情報だが、大阪市内の某朝鮮学校に『立ち入り調査』に入った大阪維新の会の市議が、「教科書を見せてみろ」「何か隠しているだろう」と警察が捜索に入っているが如く横柄な態度で、執務中の教員室でわめいていたらしい。親分に手柄を立てておこぼれをもらいたい気持ちはよく分かるが、勘違いが甚だしい。何の資格があってそんなことができるのか?情けない。