「従軍慰安婦写真展」に対するニコン不買運動 ― ネット住民による表現行為への攻撃に思う
最近公私ともにクソ忙しく、書きたいネタは山ほどあれど全然更新できずにいたが、絶対に事実として残しておかないといけないと思う事件が発生したので、合間を縫って書く。浅い論旨になることをご容赦願いたい。
まずはこちらの記事から。
元慰安婦の写真展中止 ネットに批判投稿相次ぎ「売国行為やめさせよう」
MSN産経ニュース 2012.5.24 12:14
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120524/plc12052412150010-n1.htm
(引用開始)
東京で6月から開催予定の元従軍慰安婦をテーマにした写真展について、会場運営元のニコンが突然、中止を決めたことが24日分かった。インターネット掲示板には「ニコンに不買運動をすべきだ」「抗議電話をして売国行為をやめさせよう」などと開催を批判する投稿が相次いでいた。
ニコンは実際に抗議が複数あったとしつつ「中止理由は諸般の事情を総合的に判断して決めたとしかいえない」と説明。主催者は「一方的に中止を通告され、納得できない」と話している。写真展は名古屋市在住の韓国人カメラマン安世鴻さん(41)が企画。安さん側によると、戦後に中国に取り残された朝鮮人元従軍慰安婦を撮影した38点の展示を昨年12月、ニコンに申し込み、今年6月26日〜7月9日に東京都新宿区の「新宿ニコンサロン」を使用する予定だった。しかし今月22日に突然「理由は言えないが中止になった。おわびにうかがいたい」と通告されたという。
(引用ここまで)
確かにWeb検索をしてみると、数多くの「慰安婦写真展やめろ」「ニコン不買運動やるぞ」的なスレッドが立っていた。異口同音に「ニコンは日本を売り渡すのか」「花王も亀田製菓も反日売国企業ばっかりだ」と書きたて、ヒステリーを起こしている。
私は、この騒動を聞いたとき、早速思いだしたのが、「コーヴ上映騒動」と「嫌韓フジテレビデモ」だった。どちらも「日本を不当に貶めている」という被害妄想的な理由で(狭い場所で)大騒ぎし、結果「コーヴ」はいくつかの映画館で上映禁止に追いやられた。さすがにフジテレビは影響を受けることなど無かったが。
私個人が「コーヴは反日映画なのか」「フジテレビが親韓放送局なのか」「従軍慰安婦があったのかどうか」について、それぞれどう思うかは重要ではないしわざわざひけらかすことでもないのでこの際置くが、
ひとにはいろいろな立場があり、それぞれ表現する自由がある。表現されたことに対して批判することもできるし、表現することはその表現に対し責任があることも意味する。しかし、自分の立場とは違う表現行動に対して、恫喝やいやがらせを持って事前に潰してしまう、この考え方にはまったく理解できない。
「コーヴ」に文句が言いたくても、見てからでなければ文句は言えないだろうし、見た人がそれぞれの価値観で判断すればいい話だ。フジテレビが韓流ドラマばっかり流して気に入らないのなら、韓流ドラマが始まった時点でチャンネルを変えればいいだけの話だ。同じように「従軍慰安婦はなかった」と主張したいのなら、その旨の検証を多角的に行い、同じようにパネル展でもやればいいのではないか?(何年か前にニューヨークタイムスに「The Fact」という意見広告を出して従軍慰安婦は無かったという主張がなされたことはよく知られている。それがどのように受け取られたかはさておき)
普段「表現の自由」をタテに、おのれのレイシズムを垂れ流す自由を声高に主張しているのに、おのれの主義に相容れない表現行動は愚劣な行動で潰してしまおうとするのは、まったく道理に合わないではないか?
ニコンは『諸般の事情により中止する』と言っているので、中止の理由が産経の言うようにネット発進の不買運動なのか、それとも政治家の圧力か、はたまた爆破予告か、それは分からない。
しかし仮に、本当にニコンが、ネット住民によるチンピラのような安い恫喝に屈したというのなら、大きな失望を抱かざるを得ない。この写真展の一方当事者であったはずのニコンが、この写真展を成功させるために多くの時間と労力を費やしたであろう主催者、写真家の安さん、そして被写体になった元慰安婦のハルモニたちの意向に背き、カメラを握る者の主義、良心、想いを封殺したのだから。企業の社会的な責任として、明確な説明を果たさなければならないだろう。
最後に、主催者である「重重プロジェクト」より公開された、当該写真展中止決定に対する声明を掲載する。
重重プロジェクト 新宿ニコンサロン 重重 安世鴻写真展について
http://juju-project.net/%e6%96%b0%e5%ae%bf%e3%83%8b%e3%82%b3%e3%83%b3%e3%82%b5%e3%83%ad%e3%83%b3%e3%80%80%e9%87%8d%e9%87%8d%e3%80%80%e5%ae%89%e4%b8%96%e9%b4%bb%e5%86%99%e7%9c%9f%e5%b1%95%e3%81%ab%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6/
(引用開始)
写真家安世鴻は、理由を説明できない写真展中止決定事項を受理しません。
表現の自由を犯し、ひとりの写真家の名誉を傷つけた、世界に名の知れる大企業ニコンの対応は明日以降世界中のメディアに知れ渡ります。
安世鴻と重重プロジェクトは写真展開催の再開を求めます。
安世鴻・重重プロジェクトメンバー
(引用ここまで)